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地竜謁見 (10)

彼は、治療を終えてもう小さな傷跡だけが残っている自分の眼の淵を、指先で綺麗に手入れをしてから、身を翻して立ち上がった。地竜の尾が、方向を変えてまた飛んで来た。残った隊員たちが皆底に伏せていたため、今度目標になったのはシーケン一人だった。
シーケンは伏せる代わりに素早く走り、黒い鳥のようにジャンプして尾を飛び越えた。彼は身を転がし、アンタラスのすぐ下まで近付いた。尾が地底を殴ると、洞窟全体に鳴り響く大きな音と一緒に破片と土埃が舞い上がった。

「酷いな。同じ母神を持った仲なのによ...」

砂埃の中でシリエンナイトが楽しんでいるかのごとく笑っていた。

「苦しいだろう!」

彼の剣が、頭の上で高く抱え上げられて振り下ろされた。剣は柄の部分まで地竜の足首の中にめり込んでいった。アンタラスが足を振り回すと、シーケンは、剣を持ったまま空中に投げ出された。刃が抜かれて、竜の血が吹き出た。シーケンは、この攻撃でアンタラスの関心を初めて魔術師たちから引き離すことに成功した。

アンタラスは巨大な体躯を回して、背後に集まっていた戦士たちに向けた。アンタラスの口から血のように熔岩が流れ出た。アンタラスは頭を一度突き上げ、炎が渦巻く口を戦士たちの中心に立っていたソードシンガーに向けた。

戦友たちのために戦闘の歌を歌っていたソードシンガーには、攻撃を避ける余裕がなかった。その時、闘技場のチャンピオンが、地竜の口の下へ跳びこんで、彼女を遮って押しのけた。その場所は、たちどころに火の海に変わり、避けることができなかった人々は、チャンピオンと同様に熔岩に埋もれて消えて行った。


フュィイッ!


シーケンが、アンタラスに向けて口笛を吹いた。

そのへんの雑輩たちを挑発するようなこの行動に、カーディアは疑惑が満ちたが、驚くべきことにアンタラスは頭をまたシーケンに返した。もしかしたら、はじめからアンタラスは彼を狙ったのかも知れない。

アンタラスが、まるで彼をしっかり握りしめようとしているかのように前足を振り回したが、シーケンは身を翻して避けた。アンタラスは二回攻撃をしたが、その度に攻撃は外れた。
最後にアンタラスが前足を振り下ろした時、それを避けたシーケンは足指と足指の間に剣を振り下ろした。再び彼はアンタラスの血を流させることに成功した。


「残ったのは後ろ足一つ!」

シーケンは間髪おかずにアンタラスの二つの前肢の間に飛びかかって行った。
彼がアンタラスの腹下をすり抜けて、後足に一撃入れようとしていた瞬間だった。

アンタラスが立ち上がった。

「なんと...!」

山が立ち上がるとすれば、こんな光景だろう。

アンタラスは怒った熊のように、後ろ足だけで堪えて立ち上がった。猟師の村のレンジャーたちは、アンタラスの腹部が現われたその瞬間を逃すまいと矢を雨のごとく降り注いだ。大部分は厚い皮を貫くことができずに遮断され抜け落ちたが、何足の矢は竜の鱗と鱗の間のとても細い隙間に深くめりこんだ。


シーケンは、目の前にそそり立っている竜を呆然と見上げていた。

「危険だ!」

カーディアはシーケンに向かって叫んだ。シーケンも危機を感じて走り始めたが、ダークエルフの速い足でさえ崩れ落ちる山を避けるには力不足に見えた。

瞬間、シーケンの背中の後ろで閃光が走り、彼の身体は見えない巨人に蹴飛ばされたように壁まで吹き飛ばされた。鼓膜が叫びそうな轟音と同時に、地軸を搖るがすような衝撃で、カーディアは重心を失って倒れた。

アンタラスの姿を隠した土煙が沈むやいなや、カーディアは真っ先にシーケンの姿を捜した。彼の姿は直ぐに捜すことができた。ちょうど彼女の傍で背中を撫でながらよろよろと立ち上がったからだ。

「お前は...!」


▲ 地竜謁見 (9)
地竜謁見 (11) ▼
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地竜謁見 (9)

彼女はアンタラスの声を聞いた。いや、それは声と言うよりはただ意志の表明だった。
アンタラスは、自分の寝所につまらない俗物が入って来た事実を知って、彼らを皆殺しにしなければと考えていた。アンタラスの登場で、それは非常に合理的に容易く理解できた。
彼は対話を受け入れなかったし、したがって交渉の余地は無かった。当たり前の事だ。

一方こちらは、非合理的で不可能な成果を認める状況にいた。
アンタラスは前足の片方を持ち上げた。彼女はアンタラスが何をしようとするのか悟った。
極めて単純な事だった。アンタラスは、尊大に振舞うことも、もったいぶる事もせず、手当たり次第に攻撃を開始したのだ。彼の前足に踏み潰される最後の瞬間まで精神が抜けたまま立っていた隊員三人が、巨大な洞窟の底の赤い染み三つに変わってしまった。虚しいと思うことさえできない程に虚しい死だった。


「攻撃!攻撃!」

警備隊員リハンが他でもないカーディアの耳にしきりに叫んだ。
カーディアは彼を押しのけ、もう一度全員に攻撃命令を叫んだ。

レンジャーたちがアンタラスの目を狙って矢を飛ばし始めた。魔術師たちは火と冷気と疾風を投げて、アンタラスを少しでも傷つけようとした。眼の淵にいくつかの矢がめりこんだが、それらがアンタラスに塵ほどのダメージでも与えたのかは疑わしかった。アンタラスは頭を大きく掲げて洞窟中を見渡すと、集まっている魔術師たちに向けて移動し始めた。


「騎士団!パランクス!」

グリフォン騎士団の残存兵を中心に、残っている騎士たちが、魔術師たちを保護するためにアンタラスの前を塞いだ。彼らは槍をまっすぐに立てて長方形の防御陣を構築した。

「アインハザードとアデンの栄光のために!前進!」

陣は完璧に構築され、騎士たちはヒューマンの勇気を誇示するようにアンタラスに向けて一歩一歩近付いた。整然と立てられた彼らの槍が斜めに寝かされて竜の巨躯に向けられた。その姿は50個の針を持った巨大なハリネズミを連想させた。


「あいつら...死ぬな」

片手で口を覆ったままシーケンが不吉な予言を吐き出した。カーディアは戦闘の頌歌を詠じ始めた。その歌には神々の大戦でパアグリオが水の竜パプリオンと戦った様子の内容が盛られていた。

アンタラスの前足が再び抱え上げられた。騎士たちは竜の腹部を狙っていた。アンタラスがしばらく動きを止めた時、カーディアは一抹の期待を抱いて騎士たちを応援した。


「いっそ飛び掛かって行くか」

シーケンが独り言をつぶやいた。

アンタラスの片足がパランクスの後列に覆い被さった。子供が蟻を苛めるように、アンタラスは前足で騎士たちを踏み潰したまましばらく彼らを観察した。幸いにもアンタラスは子供よりずっと慈悲深かった。彼はあまり間をおかずそのまま前足を下げた。足の下で赤い血が流れ出た。

アンタラスは残っている騎士たちの方へ頭を巡らしながら口を大きく開けて吠えた。
竜の噴き出す超自然的な恐怖は、人の理性を完全に麻痺させる。既に自らの勇気を証明した騎士たちさえ、アンタラスの咆哮を聞いた瞬間一人抜けると次々と隊列を崩し逃げ始めた。アンタラスは逃げる騎士たちを無視して、最初の目的どおり魔術師たちのいる方を向けて歩きはじめた。彼はもう死んだ騎士たちを完全に無視して、踏み付けつつ通り過ぎようと思った。

ゴッドフリー卿は、アンタラスの最初の攻撃を避けることができなかった。彼の下半身は竜に踏まれ、無惨にも踏みにじられた。しかし彼はまだ生きていた。
アンタラスが彼がいる所に足を下ろそうと思った瞬間、彼は自分の槍を真っ直ぐに持ち上げた。精霊の青い光が彼の槍を包んでいた。ゴッドフリー卿の生命が切れた瞬間、アンタラスは数百年ぶりに苦痛を感じた。

カーディアは他の隊員たちと一緒に、アンタラスの背後を狙って突撃した。彼らの狙うのは剣が触れることができる高さにある竜の足首だった。先立って走ったカーディアは視野の端、頭上の高い所で何かが巻き上がるのを見た。

「伏せろ!」

彼女は何かに足を取られて倒れた。

シュィイイイッ!

空気を裂く音と共に長くて巨大な何かが彼らの頭の上を掠って過ぎ去った。悲鳴と一緒に後に従った戦士の半分ほどが虚空に飛ばされた。彼らの中で何人かは底に倒れ転び、何人かは飛んで壁にぶつかった。

「...尾か?」

カーディアの足首を取って生命を救ったシーケンは地底に横になったままつぶやいた。

「どうも死角はない様だな」


▲ 地竜謁見 (8)
地竜謁見 (10) ▼
地竜謁見 (8)

結界の心臓が送ってくれた場所は、途方もなく広い空洞が広がっていた。どこを見ても遥かにそそり立つ壁だけが見えるだけで、その他に建造物などを見つけることはできなかった。壁は上に上がって少しずつ細くなり、そのまま天井になっている。一方の端に口を開けている巨大な穴がなかったら、方向さえ確認することができなかったはずだ。その目印以外にこの大きな密室内で遠征隊員たちが見つけることができるのはお互いだけだった。
彼らは声をひそめて雑談をした。

「橋を通って来たのか?」

カーディアは横に立っていたダークエルフに聞いた。しかし彼の目は十歩ほど下った所で象牙塔の魔術師たちと話を交わしているスペルハウラーに釘付けになっていた。
彼女はシーケンという名前のダークエルフがあのスペルハウラーに飛びかかることができないように警戒していた。相手のことを理解したかった彼女は今まで幾つかの質問を投げかけたが、皆きれいに無視された。

今度はどんな質問をしようか悩んでいる時、ダークエルフは首を振った。
視線はどこまでもスペルハウラーに固定させたままで。

「誰だか派手にやらかした後だった。文字通り化け物たち死骸を踏んで行かなければならなかった」
「黒い鎧を着た騎士たちもいたか?」

ダークエルフは頭を横に振った。

「橋が切れていた」
「...!」
「しかし自然と直っていったよ」

カーディアはギョッと驚いたあげく、ともすればダークエルフの肩を掴むところだった。

「この洞窟全体がまるで生物の骨と肉...組職のようだという考えなのか?」

シーケンの言葉が当たっていたら帰る道は心配する必要がない。

「本当に...有り難いね」

彼女は、危機の度に彼女を救ってくれた幸運を信じることができなかった。
黒い騎士たちの勇猛さは、遠征隊を一番の危機から救ってくれた。そして遠征隊員たちが皆失意にうな垂れている時現われたのが、まさしくこのダークエルフだった。そのおかげで、カーディアは遠征隊員たちの胸の中に消え失せていた火をまたくべることができた。
シーケン自身は自らがどんな仕事をしたのか夢にも考え着かないだろう。

「過去エルモアのバラカヤという村を苦しめたダークエルフ海賊に関して聞いた事がある...」
「忘れろ」
「シーケン・グルームドレイク...竜と竜が争うことになったな」

しかも彼は驚くべきことにアンタラスの巣の中にまで付いて来てくれた。兵力の大半を失った遠征隊において、シーケンともう一人の加勢は本当に有り難い事だった。この世の中にただ二人でドラゴンバレーを通って地竜の洞窟奥深くに足を踏み入れることができる冒険者が何人いるだろう?

此処の洞窟のあちこちを調べて来たローグたちは、どうしても出口が見つけられないようだと言った。ただ一つ不審なこと、壁にある巨大な穴はその終りがどこにつながっているのか分からなく今調査中だと言う。

力の強い者たちが綱を取って穴の前に立っている姿が見えた。彼らは中に入って行った仲間のためにゆっくり綱を解いていた。

突然綱を取っていた二人が倒れた。彼らは穴入口まで綱を取ったまま引かれて行き、途中洞窟端で綱を逃した。綱は素早く穴中に勢いよく入って行って消えた。
かなり遠くにいたため、カーディアは何事が起ったのかよく実感が出なかった。


ガン!洞窟全体が大きく鳴った。


「地震...?」


しばらく静かになり、轟音と共にまた地面が搖れ始めた。頭上でも大きな地鳴りによって石が落ち始めた。落ちた石は底を殴り、地面に土埃を立て始め視野を遮られた。

「中心部では危険だ!端へ!」

隊員たちは盾を持って頭上を阻みながら壁に向かって走った。地震は何分も続き、アンタラスが現れるよりも前に地震のため皆殺しになってしまうぞと泣き叫ぶ声が聞こえた。
しかし地震はしばらくした後止まり、時間が経つと土埃も沈んだ。


「被害状況を...」

カーディアは彼女のそばで落石を避けていた警備隊員に言ってから、相手が自分の言葉を聞いていないことを気づいた。

彼女は何かを予感してゆっくり頭を向けた。

穴が空いていた所、そこには穴がなかった。その場所には岩壁もなかった。
その場所には天井も、底も、本来その場所にあったものは何も見えなかった。
彼女は首を精一杯に上げるまで、自分が見ているものが何か分からなかった。

遥か遠く高い所で彼女を見下ろしてカッカと燃える二つの目と、鋭いと言うよりただ大きいだけの歯の間で炎気を吹いている口。今まで考えていた作戦や戦術はあっという間にすべて飛んでしまう瞬間だった。


「......ああ、パアグリオよ!」


▲ 地竜謁見 (7)
地竜謁見 (9) ▼
時代に乗り遅れる人



ちまたでは、今日からC5らしいですね。
もっともらしくC5情報的なものを乗っけていたaltemaですが、
まだまだ復帰できません!!


しばし待て!!!


といっても、待つのは自分ですけどね ^^;


上のSSは、PlanetSideにて。
GALAXY(大型飛行機)からの降下作戦直後に、柵の上から敵戦車を狙っていたら、
見事に返り討ちにあい、もずのはえにえ状態になった図。
地竜謁見 (7)

(俺は今何か言ったか?)

「プリキオス!」

人の気配を追跡して入って来た部屋の中には,、思っていたよりも多くの人々がいた。
シーケンは今自分が何と叫んだのか思い出せなかった。質問を受けた当事者であるスペルハウラー プリキオスは、息が詰まり首が折れそうな苦痛の中でも抵抗の意志を突き通しているが、シーケンは魔術師の左のまぶたがぶるぶる震えていることを逃さなかった。プリキオス本人も分かっていないはずだが、それはそのスペルハウラーが動揺する時見せる反応だった。

(俺は今何と言った?)

武器を抜いて持ってはいるが、アンタラス遠征隊の生存者たちは彼を攻撃する意思は無いように見えた。彼がオオカミなら、彼らは恐れた羊のようだった。皆同様に精錬された身体にすぐれた装備を取り揃えていたが、彼らには"今相手を必ず抹殺しきる"という力強い意思が欠如していた。
何が彼らをこのようにさせたのか分からなかったが、シーケンは確信した。ただ不審な視線でプリキオスと自分の顔を交互に観察するだけなやつらを、今なら皆殺しにすることもできる。

(ところで俺は今...?)

この状況で彼の唯一の仲間だと言えるホークアイ ゴースティンの腕は、やはり相変らず弦の緊張を解かなかったが、その口は馬鹿にしたように半ばヘラヘラと笑っていた。

「うん、オイ...」

ホークアイは、慌てているのが見え見えだという視線をシーケンに向けた。

「その質問には俺が分からない深い意味が含まれているのか?」


(くそ!今何と言ったのか全然覚えていない!)

...!

シーケンは目の前に何かを感じ、瞬間的に首をすくめた。四本の指がそれぞれ二個ずつ、彼の両瞳を狙い突き入って来たからだ!カッカとほてる感触と同時に左眼のふちが魔術師の爪にかかって裂けた。シーケンは魔術師を離した。そして血が流れ始めた。

「小さな...目でさえも充分に突く...価値がある...そうだろう?」

魔術師が咳きながら、いつかシーケン本人が聞かせた言葉を口にした。言葉が終わるのと殆ど同時にプリキオスは地面に倒れた。シーケンは魔術師のローブの裾を引いて彼を倒し、仰向けになった体に容赦なく足を降り下ろした。妙に軽快な音と共に魔術師は無惨な悲鳴を上げた。

「目を潰すことができなかったら万事を放り出して逃げろ、という話もしただろ?うん?」

シーケンは剣を装備し、魔術師の腹に差しこんだ。ローブの上で赤い染みが滲んで行った。その次は肩。魔術師がまた悲鳴を上げた。そして刃先を胸へ...

「...何のつもりだ?」

シーケンはゴースティンを睨んだ。
彼の矢が他でない自分の背中を狙っていることに気づいたからだ。

「やめろ、もう死ぬぞ」
「"ちょっと痛めつける"だけだ」
「"殺人"は俺の専門だ。お前は今そんなことをしている。それもとても中途半端にな」

常に何も心に無かったホークアイの目に生気が宿っていた。シーケンは、相手が本当に自分を撃つかも知れないと思った。いや、返ってそのようになって欲しいのかも知れない。
ムカムカする狂信徒の集団が付けてくれたあの道案内者はとても危なかった。もしかしたらこの場でつぶしてしまうのが、後に厄介な事を阻むことかも知れない......

瞬間ホークアイの視線がシーケンの背を脱して他の所に向かった。


「...この程度の蹴り」


背中越しから聞こえて来る低い女の声!

シーケンは反射的に声の主人を狙って剣を振り回した。しかし武器は相手の武器に当たって跳ね返った。同時に左わき腹に強烈な衝撃が訪れた。鈍器ではなく身体、具体的には蹴りによる打撃だった。彼は左手一つで地面をつきながら身を翻して衝撃を流した。

相手はこれ以上攻撃して来なかった。
シーケンは初めて自分の未熟な姿を見られた。

相手は血を流しながら倒れているプリキオスとその間を阻んで立っていた。鎧を着けたヒューマンの騎士なんかよりずっと堂々とした体躯の女オークだった。刃先が円形の二つの武器を右手に集めて持ち、彼女は左手で自分の眼のふちを示しトントンと示した。プリキオスに付けられた左目の傷おかげで、今彼には死角が生じている。オークはそれを指摘したのだ。それがなければ、動きが鈍いオークなんかに彼が背後をとられる事は決してなかったはずだ。

「枢機卿、魔術師を」

オークが言いつけると年を取ったヒューマンの聖職者が急いで魔術師の状態を見始めた。

「あのスペルハウラーを連れて行く」

オークは眉をひそめ、考え込んだように視線を下げた。
しばらく後、オークは首を左右に振った。

「承諾することはできない」

シーケンは鼻でせせら笑った。

「君の許諾は必要ない、オークよ」
「カーディア・ズ・ヘストゥイ」

オークは自分の名前を言い、格式ぶって片手を胸に当て腰を厳かに下げた。この意外な礼儀はどんな脅威よりもシーケンを慌てさせた。そしてつながるオークの言葉は、焦燥を越して当惑で彼を追い立てた。

「恋人を奪われて悔しい心は理解が出来るが、どうしても今此処でその仕返しをしなければならないか?」

次に口を開くためにシーケンは心の中で二十回程、そのオークを罵らなければならなかった。

「その病人みたいな声を摘むんだ!ふざけるのも大概にしろ!」
「そんな事は出来ない」
「ヘストゥイの関係する事ではない!」

シーケンはわざわざ炎の種族のリーダー格であるヘストゥイの名前を口にあげた。いつか若くして将来炎の君主の後を引き継ぐ素材と推挙されるオーバーロードがいるという噂を聞いた事がある。もしオークにも外交感覚というものがあったら、彼女は彼が意味することを気づくはずだ。
――これはダークエルフの問題で、オークの関与する事ではない。

「ダークエルフよ... 炎の君主だと言っても他人の恋愛をどうこうお節介をする権利...」

「この間抜け野郎!恋愛問題ではないと言っている!
 もう一度その言葉を口に出せば誓ってその口を引き裂く!」

カーディア・ズ・ヘストゥイは、他のオークたちと同じく岩のような顔でしばらく鼻白んだ後、呆れているかのように答えた。

「それじゃそうだと言っておく」

シーケンは彼の長い人生の中でも最悪の敗北感と挫折感を味わわなければならなかった。クレリックに治療を受けていたプリキオスがククク、と奇妙な笑い声を出した時、シーケンは目から炎が溢れ出るように怒った。彼の背後からホークアイが前に出なかったら、彼はすぐにでも魔術師に飛びかかり、後のことは考えずに今度こそその頭を飛ばしてしまっていたはずだ。

「彼は私たちが何ヶ月も前から追っていた逃亡者です。私たちもギラン政府の命令を受けたのです。すなわち、奴は領主の、ひいては王室の敵という意味です。あなたたちがその者を保護しなければならない理由はありません」

オークは魔術師を眺めた。

続いて彼女は、結界の心臓の前に集まっているすべての人々に目を通して、この部屋に通じる洞窟の方に視線を投げた。脅迫のごとく彼女の胸を狙っているホークアイの弓を見て、最後にシーケンと目が合った。シーケンはその眼光が少し前と全く変わったことを感じた。判決を下すダークエルフの長老のそれのように彼女の眼光は断固たるもので、一切の反論を受け入れないという意志に満ちていた。

「ポータルストーンは持っているか?」
「何?」

このうつろな反応はシーケンやプリキオスだけではなく、これらを見物した周辺のすべての人々が共通的に取った態度だった。

「何だ?」
「私たちはこの心臓によって地竜に会いに行く」

彼女はプリキオスの方に一歩退いた。

「もしお前達の問題を解決したいのであれば、一緒に行くか私たちが出るまでここで待つように」
「話にならない!」

シーケンは思わず叫んだ。

「彼は...」

カーディアは、この話をする瞬間を待っていたというように視線を左右に振って穏やかに微笑んだ。


「私たちの戦友だ」


ふっと取るに足りなく聞こえるこの宣言は、萎びれた羊の群れのようだった遠征隊員たちにまさに劇的な変化を引き起こした。壁に寄り掛かって座りこんでいたウォーリアたちが、よたよたと立ち上がり武器を誇示した。レンジャーたちは矢を準備し、魔術師たちは魔法書を素早く捲った。奥では老けたドワーフが鉄線を引っぱって彼の変な人形に生命の火を吹き入れた。

オーバーロードがどんな呪術を使ったのか分からないが、遠征隊員たちは既に自らに同情する生贄ではなかった。彼らは群れ成して敵を狩るオオカミであり、今その牙はシーケンとゴースティンに向けられていた。

▲ 地竜謁見 (6)
地竜謁見 (8) ▼
地竜謁見 (6)

橋の向こうで、魔物たちはまるで赤い波のようにざわめきを繰り返して、こちらを睨んでいた。すぐでも攻撃を再開したいが、橋を塞いでいる二人の騎士を警戒しているようだ。
全身に黒い甲冑を纏った二人の騎士が狭い道の上で幾多の敵を向い合っているその姿は、古代の壁画のように壮麗だった。遠征隊員たちがなかなか動くことができないでいると、美声の騎士がカーディアに手招きした。

彼女が近付くと、騎士は一歩しなやかに近付いて黒い兜のバイザーをこっそり持ち上げた。

「...!」

「...お分かりになりますか?」

カーディアは混乱しながら首を振った。

「私たちは大丈夫です」

騎士は手早くバイザーを下げた。

「お早く!敵が来ます!」

その言葉を合図のように赤い波が橋を覆い被せた。巨大な剣撃が波を割った。

カーディアは我を忘れていたが、誰かの催促を受けて我に返った。彼女の指揮下でギランから同行した警備隊員中の一人だった。やっと彼女は歯を噛み軋ませて素早く後退しつつ叫んだ。

「結界の心臓へ!」

うねる赤い波が今にも二つの黒い姿を飲み下そうとしていたが、カーディアはそれを無視した。他の領地から来た遠征隊の生存者たちも、彼女の叫びに従った。彼らは短い通路に沿って走り、垂れ絹のように赤い被膜が周りを覆っている小さな部屋に少ししてから到逹した。


追跡はなかった。

その部屋の真ん中には石で作られた祭壇があり、その上には人の背丈くらいある奇妙な模様の水晶が浮かんでいて、その表面でへ血のように赤い光が当っていた。誰も教えてはくれなかったが、皆それが結界の心臓であることを理解できた。

カーディアは<心臓>を一瞥し、通ってきた道を眺めた。橋がある方を目測してみたが、残った二人の黒い騎士と化け物たちがどうなったのか確かめることができなかった。ただどんな音も聞こえないという点で、二人の騎士の勇戦を見当付けるだけだった。

「治療を...」

警備隊員が包帯を持って心配そうにカーディアの前に現われた。彼女は周辺を見回したが、どう見ても警備隊の生存者は、悲しいがその一人だけのようだった。名前を問うとリハンだと言う。地竜の洞窟入口で、警備隊員の大半は地底の王を接見する用意ができていないと地竜の監視人たちに追い出されてしまったが、リハンはあの時残った何人か中の一人だった。

一方、ギラン城、そしてドラゴンバレー入口で会ってあいさつを言い交わした「ブルーシャーク」や「鋼鉄の薔薇」のようないくつかの少人数の傭兵隊、「白銀座」、「ゾーンカラー」といった騎士団の姿も見えなかった。オーレンとインナドリルから来た遠征隊も事情は似ていた。残ったものはおおよそ6~70人...

「有り難いがそんな必要はなさそうだね」

カーディアは言葉の最後に年を取った枢機卿を指差した。彼女の祈祷で、隊員たちはたちどころに体力を回復して行っていた。折れたゴッドフリー卿の左腕を含めて、切られたり割れたりにじられたりした隊員たちの傷もあっという間に癒えていった。

「猛り狂う心までは注文できないか...」

オークの胸の中でさえ冷たく凍えて切々たるものなのに、他の者たちなどは言うまでもない。遠征隊員たちは肉体に負ったものよりもっとひどい傷を精神に負った。奇跡的な治癒を体験してからも、彼らには何も―戦意が高揚するとか―なかったし、誰も結界の心臓へ我先にと近寄らなかった。

酷い無力感の霧が室内に漂った。もしかしたら戦友を捨てて来たという罪悪感が、彼らにひとかどをしているのかもしれなかった。ある人は先に立って遠征隊を橋で見捨てるようにした彼女を疑念に満ちた目つきで眺めさえした。


「誰か来る」


タッタッタッタッ......

洞窟につながる入口辺りに座りこんで機械人形をきれいに手入れをしていたドワーフが、ふと伸ばした手をを止めて声を出してつぶやいた。人々の手が武器を構えた。彼らは恐ろしさに満ちた視線を取り交わしながら敵を迎える準備をした。遠征隊の数が減ったとはいっても、赤い帳幕で仕切られた小さな部屋を満たす程はいる。

「二人だ」

二本のエルブンソードを持ったソードシンガーが、耳を動しながら入口すぐの壁に駆け付けて張り付いた。やっと二人が...カーディアはそう思おうとした。オークの果てしない勇気さえ浸食するようだった...。

「もしやあの二人なのか?」

誰かの願望が混じった独り言。その独り言は、他の人々の同意を求めて熱烈な応答を受けた。皆の顔に笑みが立ち上がり、武器を取った彼らの腕がそっと下に落ちた。

その言葉が事実ならいくら良いか...黒い兜の中を見たカーディアは、決してそんなわけがないことを分かっていた。彼女が否定しようとした瞬間、

「違う」

エルフが言った。

「プレートアーマーの足音ではないよ」

足音はますます近くなって、たちどころに誰もが二人の出す音を聞き分けることができるほどになった。魔術師たちは本を広げて杖を力をこめて握った。レンジャーたちは弓に矢をつがえた。

「くそ、どんなやつでも頭だけでも出してみなさい...」

狩人の村から来た女のレンジャーがガムを噛みながら石弓を入口に向けた。
もう直ぐ、と思った瞬間足音が止んだ。

荒てる時間はとても短かった。
足音の持ち主が残った距離を一気にジャンプして室内で跳びこんでしまったからだ。

女レンジャーが引き金を撃ち離す瞬間、オリビエが彼女の石弓を打ち上げた。矢は目標を失い、洞窟の天井に飛んでめりこんだ。攻撃を開始しようとしていた残り遠征隊員たちも二歩ほど走ってからぎこちなく歩みを止めた。現われたのは一人のヒューマンのレンジャーだった。


「何だ、生き残った人がいたのか?」


誰か安堵の一息を吐き出しながら声を掛けたが、レンジャーは答えなかった。代わりに彼は、目を細くして遠征隊員皆に向けてゆっくり視線を回した。カーディアもそのレンジャーの姿をちらりと見た。ギラン遠征隊の将として他の遠征隊を訪問する時も、そしてドラゴンバレーと洞窟を通りながら戦う間も、一度も見た事がないことを確信した。

その時レンジャーの影が飛び出した。

「誰...」

まだ言葉を言い終える前に、影は集まっている遠征隊員の真ん中に跳びこみ、瞬きする間に隊員一人の首をしっかり握りしめていた。

カーディアは影の瞳を見た。
燃える炎のようなオークの怒りがあり、氷柱のように冷たくて鋭い怒りもある。遠征隊員を見据えているレンジャーと同じく、初めて見るダークエルフの戦士だった。そして彼に捕まっているのは...

「プリキオス!」

ダークエルフの五指が二度と広がらないかように縮んだ。魔術師の首から筋肉と骨が軋む音が聞こえ始めた。常に無表情だった魔術師の顔が、まるで他人のように歪んだ。

魔術師を捕らえたダークエルフの口元が奇妙に拗じれ上がって青白色の歯が現われた。オークでも幼い子供なら泣いてしまいそうな凄惨な微笑みだった。微笑みがたちどころに憎悪に替わり、眼光が鋭くなった。自分の隠した感情を治めようというのか、ダークエルフはとても細く長い間息を吐き出した。しかしその努力は数秒も持続することができなかった。

壊れた陶器の破片で岩を引掻くように濁って逆立った声が、結界の心臓の前に鳴り響いた。

「あの盲目の小娘...エルカディアはどこだ!」

▲ 地竜謁見 (5)
地竜謁見 (7) ▼
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