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地竜謁見 (6)

橋の向こうで、魔物たちはまるで赤い波のようにざわめきを繰り返して、こちらを睨んでいた。すぐでも攻撃を再開したいが、橋を塞いでいる二人の騎士を警戒しているようだ。
全身に黒い甲冑を纏った二人の騎士が狭い道の上で幾多の敵を向い合っているその姿は、古代の壁画のように壮麗だった。遠征隊員たちがなかなか動くことができないでいると、美声の騎士がカーディアに手招きした。

彼女が近付くと、騎士は一歩しなやかに近付いて黒い兜のバイザーをこっそり持ち上げた。

「...!」

「...お分かりになりますか?」

カーディアは混乱しながら首を振った。

「私たちは大丈夫です」

騎士は手早くバイザーを下げた。

「お早く!敵が来ます!」

その言葉を合図のように赤い波が橋を覆い被せた。巨大な剣撃が波を割った。

カーディアは我を忘れていたが、誰かの催促を受けて我に返った。彼女の指揮下でギランから同行した警備隊員中の一人だった。やっと彼女は歯を噛み軋ませて素早く後退しつつ叫んだ。

「結界の心臓へ!」

うねる赤い波が今にも二つの黒い姿を飲み下そうとしていたが、カーディアはそれを無視した。他の領地から来た遠征隊の生存者たちも、彼女の叫びに従った。彼らは短い通路に沿って走り、垂れ絹のように赤い被膜が周りを覆っている小さな部屋に少ししてから到逹した。


追跡はなかった。

その部屋の真ん中には石で作られた祭壇があり、その上には人の背丈くらいある奇妙な模様の水晶が浮かんでいて、その表面でへ血のように赤い光が当っていた。誰も教えてはくれなかったが、皆それが結界の心臓であることを理解できた。

カーディアは<心臓>を一瞥し、通ってきた道を眺めた。橋がある方を目測してみたが、残った二人の黒い騎士と化け物たちがどうなったのか確かめることができなかった。ただどんな音も聞こえないという点で、二人の騎士の勇戦を見当付けるだけだった。

「治療を...」

警備隊員が包帯を持って心配そうにカーディアの前に現われた。彼女は周辺を見回したが、どう見ても警備隊の生存者は、悲しいがその一人だけのようだった。名前を問うとリハンだと言う。地竜の洞窟入口で、警備隊員の大半は地底の王を接見する用意ができていないと地竜の監視人たちに追い出されてしまったが、リハンはあの時残った何人か中の一人だった。

一方、ギラン城、そしてドラゴンバレー入口で会ってあいさつを言い交わした「ブルーシャーク」や「鋼鉄の薔薇」のようないくつかの少人数の傭兵隊、「白銀座」、「ゾーンカラー」といった騎士団の姿も見えなかった。オーレンとインナドリルから来た遠征隊も事情は似ていた。残ったものはおおよそ6~70人...

「有り難いがそんな必要はなさそうだね」

カーディアは言葉の最後に年を取った枢機卿を指差した。彼女の祈祷で、隊員たちはたちどころに体力を回復して行っていた。折れたゴッドフリー卿の左腕を含めて、切られたり割れたりにじられたりした隊員たちの傷もあっという間に癒えていった。

「猛り狂う心までは注文できないか...」

オークの胸の中でさえ冷たく凍えて切々たるものなのに、他の者たちなどは言うまでもない。遠征隊員たちは肉体に負ったものよりもっとひどい傷を精神に負った。奇跡的な治癒を体験してからも、彼らには何も―戦意が高揚するとか―なかったし、誰も結界の心臓へ我先にと近寄らなかった。

酷い無力感の霧が室内に漂った。もしかしたら戦友を捨てて来たという罪悪感が、彼らにひとかどをしているのかもしれなかった。ある人は先に立って遠征隊を橋で見捨てるようにした彼女を疑念に満ちた目つきで眺めさえした。


「誰か来る」


タッタッタッタッ......

洞窟につながる入口辺りに座りこんで機械人形をきれいに手入れをしていたドワーフが、ふと伸ばした手をを止めて声を出してつぶやいた。人々の手が武器を構えた。彼らは恐ろしさに満ちた視線を取り交わしながら敵を迎える準備をした。遠征隊の数が減ったとはいっても、赤い帳幕で仕切られた小さな部屋を満たす程はいる。

「二人だ」

二本のエルブンソードを持ったソードシンガーが、耳を動しながら入口すぐの壁に駆け付けて張り付いた。やっと二人が...カーディアはそう思おうとした。オークの果てしない勇気さえ浸食するようだった...。

「もしやあの二人なのか?」

誰かの願望が混じった独り言。その独り言は、他の人々の同意を求めて熱烈な応答を受けた。皆の顔に笑みが立ち上がり、武器を取った彼らの腕がそっと下に落ちた。

その言葉が事実ならいくら良いか...黒い兜の中を見たカーディアは、決してそんなわけがないことを分かっていた。彼女が否定しようとした瞬間、

「違う」

エルフが言った。

「プレートアーマーの足音ではないよ」

足音はますます近くなって、たちどころに誰もが二人の出す音を聞き分けることができるほどになった。魔術師たちは本を広げて杖を力をこめて握った。レンジャーたちは弓に矢をつがえた。

「くそ、どんなやつでも頭だけでも出してみなさい...」

狩人の村から来た女のレンジャーがガムを噛みながら石弓を入口に向けた。
もう直ぐ、と思った瞬間足音が止んだ。

荒てる時間はとても短かった。
足音の持ち主が残った距離を一気にジャンプして室内で跳びこんでしまったからだ。

女レンジャーが引き金を撃ち離す瞬間、オリビエが彼女の石弓を打ち上げた。矢は目標を失い、洞窟の天井に飛んでめりこんだ。攻撃を開始しようとしていた残り遠征隊員たちも二歩ほど走ってからぎこちなく歩みを止めた。現われたのは一人のヒューマンのレンジャーだった。


「何だ、生き残った人がいたのか?」


誰か安堵の一息を吐き出しながら声を掛けたが、レンジャーは答えなかった。代わりに彼は、目を細くして遠征隊員皆に向けてゆっくり視線を回した。カーディアもそのレンジャーの姿をちらりと見た。ギラン遠征隊の将として他の遠征隊を訪問する時も、そしてドラゴンバレーと洞窟を通りながら戦う間も、一度も見た事がないことを確信した。

その時レンジャーの影が飛び出した。

「誰...」

まだ言葉を言い終える前に、影は集まっている遠征隊員の真ん中に跳びこみ、瞬きする間に隊員一人の首をしっかり握りしめていた。

カーディアは影の瞳を見た。
燃える炎のようなオークの怒りがあり、氷柱のように冷たくて鋭い怒りもある。遠征隊員を見据えているレンジャーと同じく、初めて見るダークエルフの戦士だった。そして彼に捕まっているのは...

「プリキオス!」

ダークエルフの五指が二度と広がらないかように縮んだ。魔術師の首から筋肉と骨が軋む音が聞こえ始めた。常に無表情だった魔術師の顔が、まるで他人のように歪んだ。

魔術師を捕らえたダークエルフの口元が奇妙に拗じれ上がって青白色の歯が現われた。オークでも幼い子供なら泣いてしまいそうな凄惨な微笑みだった。微笑みがたちどころに憎悪に替わり、眼光が鋭くなった。自分の隠した感情を治めようというのか、ダークエルフはとても細く長い間息を吐き出した。しかしその努力は数秒も持続することができなかった。

壊れた陶器の破片で岩を引掻くように濁って逆立った声が、結界の心臓の前に鳴り響いた。

「あの盲目の小娘...エルカディアはどこだ!」

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