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彼女はアンタラスの声を聞いた。いや、それは声と言うよりはただ意志の表明だった。 アンタラスは、自分の寝所につまらない俗物が入って来た事実を知って、彼らを皆殺しにしなければと考えていた。アンタラスの登場で、それは非常に合理的に容易く理解できた。 彼は対話を受け入れなかったし、したがって交渉の余地は無かった。当たり前の事だ。 一方こちらは、非合理的で不可能な成果を認める状況にいた。 アンタラスは前足の片方を持ち上げた。彼女はアンタラスが何をしようとするのか悟った。 極めて単純な事だった。アンタラスは、尊大に振舞うことも、もったいぶる事もせず、手当たり次第に攻撃を開始したのだ。彼の前足に踏み潰される最後の瞬間まで精神が抜けたまま立っていた隊員三人が、巨大な洞窟の底の赤い染み三つに変わってしまった。虚しいと思うことさえできない程に虚しい死だった。 「攻撃!攻撃!」 警備隊員リハンが他でもないカーディアの耳にしきりに叫んだ。 カーディアは彼を押しのけ、もう一度全員に攻撃命令を叫んだ。 レンジャーたちがアンタラスの目を狙って矢を飛ばし始めた。魔術師たちは火と冷気と疾風を投げて、アンタラスを少しでも傷つけようとした。眼の淵にいくつかの矢がめりこんだが、それらがアンタラスに塵ほどのダメージでも与えたのかは疑わしかった。アンタラスは頭を大きく掲げて洞窟中を見渡すと、集まっている魔術師たちに向けて移動し始めた。 「騎士団!パランクス!」 グリフォン騎士団の残存兵を中心に、残っている騎士たちが、魔術師たちを保護するためにアンタラスの前を塞いだ。彼らは槍をまっすぐに立てて長方形の防御陣を構築した。 「アインハザードとアデンの栄光のために!前進!」 陣は完璧に構築され、騎士たちはヒューマンの勇気を誇示するようにアンタラスに向けて一歩一歩近付いた。整然と立てられた彼らの槍が斜めに寝かされて竜の巨躯に向けられた。その姿は50個の針を持った巨大なハリネズミを連想させた。 「あいつら...死ぬな」 片手で口を覆ったままシーケンが不吉な予言を吐き出した。カーディアは戦闘の頌歌を詠じ始めた。その歌には神々の大戦でパアグリオが水の竜パプリオンと戦った様子の内容が盛られていた。 アンタラスの前足が再び抱え上げられた。騎士たちは竜の腹部を狙っていた。アンタラスがしばらく動きを止めた時、カーディアは一抹の期待を抱いて騎士たちを応援した。 「いっそ飛び掛かって行くか」 シーケンが独り言をつぶやいた。 アンタラスの片足がパランクスの後列に覆い被さった。子供が蟻を苛めるように、アンタラスは前足で騎士たちを踏み潰したまましばらく彼らを観察した。幸いにもアンタラスは子供よりずっと慈悲深かった。彼はあまり間をおかずそのまま前足を下げた。足の下で赤い血が流れ出た。 アンタラスは残っている騎士たちの方へ頭を巡らしながら口を大きく開けて吠えた。 竜の噴き出す超自然的な恐怖は、人の理性を完全に麻痺させる。既に自らの勇気を証明した騎士たちさえ、アンタラスの咆哮を聞いた瞬間一人抜けると次々と隊列を崩し逃げ始めた。アンタラスは逃げる騎士たちを無視して、最初の目的どおり魔術師たちのいる方を向けて歩きはじめた。彼はもう死んだ騎士たちを完全に無視して、踏み付けつつ通り過ぎようと思った。 ゴッドフリー卿は、アンタラスの最初の攻撃を避けることができなかった。彼の下半身は竜に踏まれ、無惨にも踏みにじられた。しかし彼はまだ生きていた。 アンタラスが彼がいる所に足を下ろそうと思った瞬間、彼は自分の槍を真っ直ぐに持ち上げた。精霊の青い光が彼の槍を包んでいた。ゴッドフリー卿の生命が切れた瞬間、アンタラスは数百年ぶりに苦痛を感じた。 カーディアは他の隊員たちと一緒に、アンタラスの背後を狙って突撃した。彼らの狙うのは剣が触れることができる高さにある竜の足首だった。先立って走ったカーディアは視野の端、頭上の高い所で何かが巻き上がるのを見た。 「伏せろ!」 彼女は何かに足を取られて倒れた。 シュィイイイッ! 空気を裂く音と共に長くて巨大な何かが彼らの頭の上を掠って過ぎ去った。悲鳴と一緒に後に従った戦士の半分ほどが虚空に飛ばされた。彼らの中で何人かは底に倒れ転び、何人かは飛んで壁にぶつかった。 「...尾か?」 カーディアの足首を取って生命を救ったシーケンは地底に横になったままつぶやいた。 「どうも死角はない様だな」 |
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